2021.06.27
山行
終活とか断捨離とか…変な名前つけなくてもいい。いかにも人の老いを商品化しているみたいで(よく、そんなタイトルのセミナーでお客を集めて、保険の勧誘とかリフォームの勧誘リストに使ってそうで気味が悪い)、日本全国、言葉が軽い。
単純に考えて、遠くに住む娘らが、僕の遺品の後始末に困らないように、ちょいと荷物を整理する行為だけなのに…「終活」より僕には「店じまい」とう言葉の方がしっくりくる。
カビだらけのレコードなんて捨てるしかないではないか (苦笑)。まず迷惑なのは家人だろうし、少しクセのあるレコードは、クセのある人に渡したい。昔のフォーク、ジャズなど、すでにCDで復刻盤が出ているものはレコードで保管の必要はないし、若かりし頃に聞いたフォーク、ジャズ、ロックなんやかや。押入れの奥にしまっていた段ボールの中を整理し売りに行くことにした。
売りに行くのは、熊本市内上通りの古書店「汽水社」さん。ここの主とは奇遇にも縁があった。主は東京で古書店の修行をしていて、西荻で上上堂という古書店をしている友人丸ちゃんの、友人の友人なのだ。汽水社さんはここ数年前に出来た店で、熊本には珍しい垢ぬけて店内も広い。品揃えも僕の趣味に合うし、レコードも販売されている。要するにこの人ならすべてお任せと信じている。価値の分かる店に売り、価値の分かる人に古書をつないで欲しい。以前、まともに読みはしなかった「辻潤全集」を買い取ってもらった。
今回はレコードだけど、まぁ数枚珍しいのを入れていたので、買取額は2万近くになった。なんでも鑑定団のように、買取の理由を丁寧に説明してくれた。自宅から2時間近く。家人にも持ち込みを手伝ってもらったが、ふと、帰り際に本棚から僕の探していた「泉村の自然(1993年発行)」を発見した。これは掘り出し物、まさかサブカル!の書店の棚に収まっているなんて!
「泉村の自然」は3部構成になっていて、図書館には緑の表紙の本編しか置いてない。実は、別に資料編と称した目録と、封筒に入った地質図、現存植生図、概念図が付いている。価格は新品同様で5000円だった。本編には植物、動物、生物の資料が詳細に記録してあり、これ一冊で五家荘の自然をまとめた博物誌なのだ。更にしばらくして、今度は「泉村誌(2005年発行)」が汽水社さんから「見つかりましたよ~(いつもの事務的な声)」と連絡があったのだ。(また新品だった)泉村誌はそのまま、村の歴史や伝承された文化がびっしり詰め込まれている。値段は4000円(安い!)
熊本県立図書館にはもちろん県内の村誌、町史などがびっしり置いてある。しかし何度眺めてみても「泉村誌」はその内容の濃さからしたら一番だ。五家荘の山と同じで本の中に迷い込んだら彷徨しかない。僕のカビ生えたレコードがあっという間に、長年探していた本に変身した。
今年の梅雨入りは例年より早く、なかなか山にも入りにくい時が続いた。それでも強烈に晴れ男を自称する僕は天気予報が雨でも2度ほど、谷に入った。(もちろん雨に追い出された)
それでも景気つけに(何の景気つけやねん)…泉村の自然の本の中の蝶や虫たちを眺めていると、誰かに出会えそうでわくわくするのだ。泉村の自然の発行は1993年、今から28年前の自然を記録したもので、当然、当時の自然と今では大きな違いがある。もちろん、山を訪れる人間にも大きな変化があるに違いない。「泉村の自然」のおかげで、これまでは山野草ばかりに目が行っていたが、ここ数回の山行では、虫の気配を探すようになった。
県内で一番自然の豊かな地域は「五家荘」と言っても過言ではない。大雨、日照り…こればかりは人の力ですぐにどうのできないのは分かり切ったこと。五家荘の自然について、今のところ、人の出来ることは「何もしない」ことなのだと思う。
最近では「地球に優しい」とか「自然に優しい」とか、「太陽の畑 (熊本の某化粧品会社…)」とか虚言を吐き、豊かな雑木林を取り崩し、果てしなく平らに整地して生き物を追い出し、太陽光パネルを貼る事業が、雨のたびに土壌が流され周りの自然を破壊している事件がようやく報道されてきた。最近流行の「sdgs」とかいう虚言も同じ発想で、レジ袋ばかり言いながら、肝心のペットボトルや自販機の電気消費については一切言わない、言わせない嫌な言葉が蔓延してきた。
2012年の日本蝶類保全協会の図鑑には日本に土着している蝶の種類は約240種、環境省のレッドリストに載っているのはなんと69種。蝶の約29%が絶滅の危機とか。この図鑑も古書でその10年後の今、蝶の種類は更に減っているのだろう。
嗚呼、店じまい近いわが身。雨も楽し、雨に濡れるも楽し、五家荘。