2020.04.15
山行
夜明けの浅い眠りの中で、脳裏に浮かぶ形。
五家荘の森に埋めるオブジェの形の事だ。
感嘆符の驚きマークとは違い、それとは真逆のデザイン。
空間に空いた丸い穴から、したたり落ちる滴の形。
森の樹々の葉から落ちる滴。青い苔に湧き上がる滴。
谷の苔むす岩々の間をほとばしる、生れたばかりの滴。
山の斜面を転がり落ち、追われながら流す、獣たちの涙の滴。
人の額を伝う汗の滴。瞳から湧き出す涙の一滴の形。
命の最後のひと絞りはそんな形なのだろうかと思う。
サイズは手のひらに乗るサイズ。
土をこね、滴の形に成型し、深い緑の釉薬をたらし、
窯の炎で焼き、出来上がり。
その滴を森に持ち込み、写真を撮る。
他人にとっては無意味・意味不明な行為だが
極私的には有意味な行為。
写真の中の滴の中に、森のすべてが映り
封じ込められる。
滴の形は、何かを生み出す、種の形にも似て、
空の上からすっと降りてくる、錘の形にも見える。
前回、陶芸体験に参加し、
とても自分には何かを作り出す力はないと
断念。
アイデァだけを思いつき、わくわくする。
こんな気分は久しぶりだ。
早速、陶房立神峡のH氏にメールを送る。
H氏は快く引き受けてくれた。
時間がかかるという条件で。
14日、ようやく五家荘に出かけることができた。
山桜も散り、もうすぐ新緑の時期だ。
もうだめかと思いながら、
山道を走らせ、ある秘密の花園で
カタクリの花と再会する。
カタクリは春植物で、
森林に初夏の花々が咲き、
土中の養分を取られる前、
暗い森にかすかに射し込む光を得て
根っこに養分をため込み
花が咲くのは長くて1週間。
また地中に眠りに落ちる、
何とも、けなげな植物なのだ。
カタクリの花が春風に揺れ、
薄紫の花びらに日の光の滴が
少し差し込み、一瞬、明るくなる。
その一瞬に合わせて
シャッターを押すことが出来てうれしい。
咲いたカタクリの花も
一滴の滴に見えてくるのだ。