熊本県 八代市 泉町(旧泉村) 五家荘
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雑文録

2026.03.24

文化

今年初めての五家荘の山行 (3月8日) だった。すでに3月、頬をなでる風は暖かいが、なぜか足元を吹く風は嫌な冷たさがある。

遠い海の向こうで、人殺しが行われているからだろうか。

久連子(くれこ)集落にも、日露戦争時に戦死された軍神の像が祀られてあり、雪が溶けるとくすんだ色の苔に包まれていた姿を現す。軍神は姿がぼろぼろになりながらも重い背嚢を背負ったまま、背筋を伸ばし、銃を脇に立ち続けている。視線は向かいの山に広がる、春の青い空を見上げている。

森の奥で「ポーン」という音がこだまする。鹿を追い出す空砲なのか。

おなじみの場所で「福寿草」と「セリバオウレン」が咲いているとの情報も得て、会いに出かけた。セリバオウレンとはキンポウゲ科の植物で、なかなか出会えない春の山野草なのだ。今年は運よくいつもの場所で再会を果たした。小さく可憐な白い花。彼ら彼女ら(雄花と雌花がある)の姿を杉林の暗がりで見つけると、なぜか線香花火を連想する。森の中で白い火花がパチパチ飛び散っている。

林道を歩いていると、山野草と目が合いはっと、ときめく時がある。不思議なことに登りは全然気が付かないのに、下りの道の岩の影では目があい、「ああ、こんなところにいたのか?」と出会いを喜ぶ瞬間がある。これからの季節は、冬に眠っていた花々が目を覚まし始めるから、山歩きはいっそう楽しくなる。

最近は、山野草どころか道端の道祖神、お地蔵さんにも目が合うようになった。博物館に展示された仏像をガラス越しに眺めても目が合うようなことはない。仏像に踏みつけられた邪鬼と目が合い、会話をすることは多々あるが。邪鬼と私…お互い気が合うのだ。

久連子の小道を歩いていると、谷間の集落が春の湧き上がる陽気の中で朽ちていくのが分かる。斜めに傾いた廃屋、板の破れた作業小屋。荒れた川、鳥居が崩れかかる神社、集落の過去を記したお寺も空洞になってしまった。

五木から久連子へ向かう川沿いの道は断崖絶壁。崩落防止の太い針金製のネットが落石で膨らんでいる。ガードレールは可哀そうなくらい傷だらけ。岩山を削り道が作られてあり、この小道を人々は生活の道として通っていたのだ。帰り道、ふと岩のくぼみに祀られているお地蔵さんと出会う。花が手向けてある。春の陽だまりの中でお地蔵さんは眠りに落ちているようで、そっと、起こさないように帰路についた。

 

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