2019.08.20
文化
脳内には「記憶の森」がある。生い茂った樹々、頭上から垂れ下がるツタ。足元には苔むす、岩々…
そんな薄暗い景色の中に、踏みしめられた記憶の小道が見える。
8月は家の事情や気候の都合もあり、ほとんど五家荘には行けなかったのだが、森に行けない分、自分の脳内にある、記憶の森の小道をたどることにした。森の小道は行きかう記憶がなくなれば、時に浸食され、道は消え、そのうち無くなってしまう。
不思議なことに白い記憶の中から小道が突然現れ、その小道の向こうに思わぬ景色を眺める場所に出くわす時がある。そんなことを頭の中で考えていると、ますます僕の脳内は迷宮のようになっていくのだけど。
今年の夏は騒々しい夏だった。ツィッターを始めてみて、夏の騒々しさの原因はツイッターが発信源となった。テレビや新聞で報道しない、報道できないことがツイッターの中では、拡散され、人々の綿々としたツィート(つぶやく)が帯をなす。いや、つぶやきどころか、叫び、ののしり合い、デマがばらまかれる。
※今夏の愛知の美術展の表現の不自由騒動。
熊本市にも現代美術館があり、街のど真ん中でこれまで、ユニークと言うか公立らしからぬ企画展を実施されてきた。開館したのは2002年。僕は幸運にも初代館長の田中幸人さんに話を聞く機会があった。田中さんの短くて密度の濃い人生の時間を分けてもらった。氏曰く、熊本市から館長就任の打診があった時に就任の条件として現代美術館が市の教育委員会の管理下でないことを出したそうだ。
教育委員会の傘下だと、まったく美術、芸術の事を理解できない連中があれこれ口を出し、
「あれはダメ、これはダメと言い出し、何もやりたいことが出来なくなるわけなんだよね」
「それでは館長を引き受ける意味がない」と語った。
そして、熊本市はその条件を飲み、氏は初代館長に就任したそうだ。それから氏はこれまでになかった独自の企画展を精力的に開催された。
僕は「日本人の心」だの、そんな心はどこにあるのかと思う。教育委員会のおじさん、おばさんたちは、そんな心は、美しい田舎の、田園風景の中にあると信じているのだろう。(だったら何故、自然を破壊し、無駄なダムをつくり、海を干拓するのだろうかね)
そんな居眠りしそうな心地いい景色だけが芸術だと信じている人は、そのまま昼寝しておいて欲しいと思う次第。(しかもすぐ値段を聞きたがるしね)
心地の悪い表現でも、得体のしれない表現、何か自分の心に引っかかる表現の方が「心地よい絵葉書のような作品」より面白いに決まっているではないか。もともと「表現」なんて得体のしれないものなんだし。答えなんてあるものか。
田中さんとの会話は「ちょっとだけなら」と言う氏の条件を、氏自身が熱弁をふるい、僕にとっては貴重な1時間となった。
※我が「極私的五家荘図鑑」はすべて自費でアマゾンで発行販売中。1円も公金、税金、補助金なぞもらっていない。もちろんマスコミでの紹介、報道もなし。自慢じゃないが、「地域興し、地域創生」でも何でもないし「芸術性のかけらもなし」何の役にもたたない。
話の流れで僕は田舎の事を聞かれ、宇土半島の突端と答えた。氏は新聞記者時代から、装飾古墳壁画をはじめ民俗学、人類学にも造詣が深く、当時の古墳調査は地元農家とのせめぎあいだったという。農家は古墳調査をさっさと終わらせ早く、金になるミカンの樹を植えたくて仕方なかったそうだ。
そんな中で、ようやく小田良(おだら)古墳は保存されたようで、その古墳は今も海沿いの草原に堅牢に保全されている。
(※県立装飾古墳館にレプリカが展示中。)
田中幸人さんは館長就任後、わずか2年後の2004年すい臓がんで亡くなってしまった。
脳内の記憶の小道…その小道は、今年の6月に母校、三角中学校の還暦同窓会の場で違う小道につながった。およそ、45年ぶりに再会する同窓生、その場で小田良に住むマンゴー農家の若本君に会い、古墳の話をすると、若本君いわく、「そうそう、高校の時に(友人の)三郎と小田良に帰ると、バス停の近くで何やら、オジサンたちが土をほじくり返していて、俺らにも手伝ってくれと、言うたとたい。」そこで若本君と三郎は腕まくりして必死で土を掘ったら、勾玉がぞくぞくでてきて、更に、三郎は立派な銅剣を発見したそうだ。
二人の心はときめいた。
明日の地元の新聞には絶対二人の写真が掲載され、「有名になるばい」と期待した。もちろん、二人の写真も名前も掲載されるわけがなく、発見者は教育委員会となっていたそうだ。そういいながら若本君は、残念そうに陽に焼けたマンゴーのような頭をかいた。
しつこい僕は更に更に、脳内の小道をたどる…
田中幸人さんが全国紙の新聞記者時代の相棒、Aさんの事も思い出され、アマゾンで検索すると、Aさんが熊本支局長時代に五家荘を民俗学の見地から調査されまとめた本が、「アマゾンの密林」から見つかり、早速その本を取り寄せ読むに、更に、小道には奥があり…僕の夏休みの宿題となったのだ。
まずは、近々、小田良古墳の見学に行こうと思う。