2020.08.25
山行
海抜ゼロメートルの自宅から車を走らせること2時間半、着いたのは僕のお気に入りの山々。真夏気温40度を超える下界が、標高1500メートルまで来ると、心地よい涼しさにほっとする。峠では小鳥たちの楽し気に歌を競い合う声にいやされる。一昨年の夏、ある谷を降りた時、苔むした横倒しになった流木から、長ーく伸びた茎の先に涙のしずくのような花弁をたらした勇ましい植物に出会った。濃い緑の葉を大きく広げ、下から見上げるその雄姿に僕は見惚れてシャッターを切った。その名は「ぎぼうし」。その不思議な名前と涙を垂らす、うつむくその姿を僕は記憶に刻んだ。7月に京都に行った時、家々の軒先の鉢にこじんまりと背中を丸めた同類の姿を見かけたのだが、その「養殖もの」の姿に驚いた。同じ花でこうも勢いが違うものか。お盆に阿蘇、産山村 ( ヒゴタイ公園) の川沿いの小道を歩き、またも同族、ぎぼうしの群生を見かけたのだが、彼らも養殖ものと同じ、ひ弱でまったく生命力を感じなかった。(失礼を承知で書くが、誰か種でも蒔いたのか?) 五家荘のギボウシを見てみよ。過酷な環境で1本どっこ。体を思いきり伸ばし、花を咲かせている。谷は「天然もの」の宝庫。探せばいろいろな出会いがあるのだろうけど、盗掘が後を絶たないそうだ。中には苔ごとごっそり盗む罰あたりな輩もいるらしい。( 絶対、罰当たるからねっ! ) どうせ下界で植えても枯れるのに「天然物ですよ、旦那」と売りつける。阿蘇では違う場所で、「キツネノカミソリ」を見かけた。初めて見るその怪しくも紅い花を調べてネットで検索するに、楽天でキツネのカミソリが通販されていた。「まさか売っているのは、天然ものではないでしょうね?お店の旦那」
今回はギボウシの時と違うルート山頂を目指す。( 情けないが、山頂まで行くのは無理… ) リハビリもかねて片道1時間半と決めて森の空気を吸い、山道を引き返す。
蝶の収集家として有名なのは解剖学者養老孟司先生。たまたま先生のユーチューブの動画を見ていたら淡々とした独特な語り口で、森の素晴らしさを語っていた。先生が飼っているマウスを「ほら自由になりな」と、机の上に開放したら、じっとして机の四角の世界でうずくまり動かなくなったそうだ。1週間経ち、ようやく自由に動き始め、体調が戻り生き生きしてくる。先生曰く、今の子供はネズミそのもの。大人が干渉しすぎると嘆く。だから子供のうちに森に連れていき自然を体験させるのは大事なことだとも語った。大人も動かないマウスだから仕方ないか。気温もエアコンで統一。変なサプリを飲んで長生きを目指す。コロナ騒動であわてふためくマウスたち。御年82歳の養老先生。煙草にさりげなく火をつけ、うまそうに吸い「ぷはーっ」と白い煙を吐いて微笑んだ。
帰りに少し寄り道。なんと今度は花の群生の中に「アサギマダラ」の群舞を見ることができた。次から次に、夏空から舞い降りてくる。もちろん天然もの!
「アサギマダラ」も謎の多い蝶で、海を渡り日本の高山にやってくるそうだが、検索していて、なんかもったいなくなり、その手を止めた。
海を渡る謎の蝶のままでいい。調べ尽くして知ったかぶりして語るより、今は謎の蝶のままで、僕のこころは充分満たされた。
五家荘は貴重な「養老の森」の一つなのだなぁ。