2017.11.12
山行
11月3日、5日と五家荘の山へ。
九州百名山に選ばれた10座の山々で、残るはあと2座。山犬切(やまいんぎり・1,562m)と積岩山(つみいわやま・1,414m)を2日で登るのだ。この2つの山は、五家荘エリアの南部を東西に横切る稜線上にある。登山口(泉・五木トンネル)から急登してその稜線に出て、東に向かえば山犬切の頂上で、西に向かえば積岩山の頂上だ。3日に山犬切、5日に積岩山を登った。
◆11月3日
登山口から、稜線に出て石楠(しゃくなん)山西峰、石楠越、石楠山東峰、そして山犬切山頂、更に足を伸ばして、七遍(ひちへん)巡り山頂、水上越のルートを往復した。なだらかな稜線上のピークを辿るルートで、ちょうど紅葉の時期もあり景色も良かった。足元の枯葉をサクサク踏みしめながら、青空の下を秋風に吹かれながら一人歩く。
このルートの山頂の名称にはいわれがあり、今、石楠越は「しやくなんごし」と呼ばれる峠だけど、以前はその峠を越えるのはたいそう難儀したということから、百難「ひゃくなん」越と呼んでいたらしい。「ひゃくなん」がいつの間にか、山に咲く花の「しゃくなん」に変化したという。山犬切の山犬はオオカミのことで、昔、そこでオオカミを切り殺した場所とのこと。地元では山犬を、やまいぬではなく「やまいん」と呼ぶ。ちなみに、きつねは「のいん」、さるを「やいん」と呼ぶそうだ。
七遍巡りの由来は不明だけど、私見だが、平らなピークなのでガスがかかったりすると、道に迷いやすいので七回も堂々巡りをするから、そういう名がついたのかもしれない。水上越(みずかみごし)は、稜線南部の水上村から越えて来る峠のこと。峠と言っても、水上村側の斜面は断崖絶壁のような急坂で、よくこの坂を越えてくるものだと感心する。峠には目印になる巨岩があり美しい紅葉に彩られていた。(満月の夜に、この岩の上でオオカミが遠吠えをすれば、山の秋はいっきに深まったか。)
トンネルに無事下山するも、帰路の林道で車ごと道に迷い、またもや遭難しかける。もう恥はかきたくないと小道を強行突破すると、たどり着いたのは湯前町の温泉館の前だった。高速道を通り帰宅。
◆11月5日
登山口から、稜線に出て鷹巣山、蕨野山、岩茸山、積岩山を目指した。3日と同じく、なだらかな稜線上のピークを辿るルートだが、途中、馬酔木の茂みに覆われている箇所があり、それをかき分けながら進むと倒木に行く手を遮られ、左右に逃げているうちに道が分からなくなる。それでも何とかルートを修復し、稜線に戻りながら先に進む。
天然林を抜け、途中の表土がむき出しになった尾根では、紅葉に彩られた山々が遠望できて気持ちがいい。ただ今回は山犬切ルートと違い、時に信じられないくらいの天然林の巨木が根こそぎ倒れていて白骨化している。風当たりが強いのか、昨今の大雨で土が流出して根っこを浮き出させるのか、その枯れた骨をポキポキ踏み折りながら、歩みを進める。サンゴが温暖化で「白骨化」しているのと同様、今後は山上も荒れ地と化して、木々の枯れた白い骨で覆われて行くのだろうか。
◆鬼門の奥座向
いよいよ積岩山に着く。林の中のポッコリした小さなピークだ。時刻は11時53分。そのまま弁当を食べて、来た道を戻れば登山口に着くのは午後3時頃。積岩山の向こうには大きな尾根が北に伸びて、その向こうのピークが奥座向(おくざむき・1,240m)だ。
僕が10月に遭難したのは、奥座向から積岩山へ向かう途中、要するに今回と真逆のルートで道に迷ったのだ。いよいよリベンジの時…いや、そんな、山に向かって「リベンジ」とか言う言い方は良くないぞ…「検証の時」…どうもしっくりこないが…つまり、積岩山と奥座向を迷わずに往復する事で、自分がどこで道に迷ったのかも分かるし、極私的に自分に「落とし前」…いゃ、こんな言い方もいかん…「自分の気持ちを納得させる」…ために、あと往復2時間、頑張ってみるのか、みないのか。
実は僕は、アマゾンで読図の本まで買って学習していた。★5個のレビューのお墨付き、演習用の山の地図までついている良本を見つけたのだ。もちろん2万5千分の1の地図も買い込み、コンパス片手にここまでやってきた。当然赤いテープも参考にしたが、地図を何度も見直しながら積岩山のピークを踏んだのだ…何も自慢げにいうことではない、それが当たり前の登山なのだろうが…本に書いてあるとおり、平べったいピークほど、降りる尾根を間違えやすいのも再確認した。
さて、どうするか…ここまできたじゃないか。(そのつもりだったじゃないか、今更何を怖気づいている?)
ちゃんと帰れて、登山口には午後5時。すでにタイムリミットギリギリだ。自問自答の時…はたから見たら大の男が指を頬に当てて思案する姿は滑稽…そして決断、行こう、真っすぐ。今日しかない。
目の前の尾根を素直に下るだけだ。そして来た道を、素直に戻れば帰還出来る。僕は地図を何度も見直し、道を下り始めた。
…しばらくすると、倒木で道があやふやになりだす。道案内の赤いテープも見当たらない。単純に尾根に沿い、北北東に降りるだけだがどうも北に向かい、知らぬ間に谷に向かって道を下りだしている。見晴らしは良くない。雑木林の中、もう一度、尾根に向かい登りだす。途中で、奥座向への案内版を見つける。ホッとする。自分は間違っていない。その案内版に沿って先に進む。また、道が分からなくなる。地図を見る。現在地がつかめない。とにかく頑張って坂を登る。方角は間違っていないはず…茂みの向こうに、また看板が見える、太陽に反射して白く見える。あの看板を目指して、あとひと踏ん張り。
息を切らし、その看板の前に立ってその文字を見ると、そこには「積岩山」と書いてあったのだった。僕はおよそ30分近く、奥座向に向かうつもりが丸い円を描いて、もとの場所に戻ってきたのだった。
その瞬間、脳裏に浮かんだ言葉は、「帰ろう」。
奥座向は鬼門なのだ。山の神がこう言っている、「行くな」と。僕はそのまま引き返し、トンネルの登山口に午後2時44分に着いた。
やはり、五家荘の山は面白い、奥が深いなぁ…。(苦笑)