熊本県 八代市 泉町(旧泉村) 五家荘
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雑文録

2017.09.03

山行

去年は椎原の川で、ヤマメ一匹何とか釣り上げたのだけど、今年の夏は一匹も釣れなかった。夏の終わり、折角釣りに行くのだからと、前日から必死で毛ばりを巻いて期待して出かけたのだけど、残念な結果に終わってしまった。五家荘の谷は深く、それに沿って流れる川の数は無限のように感じる。ヤマメはとても敏感で臆病で、人の足音、影にも気が付くと岩の陰から出てこない。つまりその川の上流に人がいると、その下流でヤマメを釣るのは困難となる。要するにヤマメの川は一人一本が理想なのだが、五家荘の川は当然のことながら何時行っても、独占状態だ。それでも釣れないのは、釣る人の腕が悪いのだろう。しかもフライフィッシングというスタイルで釣るのだから、わざわざ早朝から出かけていながら、自分で手かせ足かせ、ハンデを与えているようなものだ。

フライは鞭の要領で、いったん竿を後ろに返して、もとに戻す反動で川に針を落とす西洋式の釣り方だ。川幅が狭く、木々が両岸に生い茂る日本の川では、うまくいかないのは当たり前。竿を後ろに戻す段階で、伸びた釣り糸や針がすぐに木々の葉や枝に引っかかってしまう。そしてそのもつれた針をほどこうと背伸びをしているうちに、足がもつれ風がふいて、体に糸が絡みつき、老眼の自分は焦って眼鏡をはずすとどっと汗が吹き出し、うずくまり、山奥の川で一人、糸巻き虫のミイラのよう、ぐるぐる巻きになった悲惨な姿を、物陰に潜む猿や鹿にさらすことになる。

(熊本に今、いったいどれくらいのフライ人口がいるのか不明だ。今や専門店もなくなり、公に教える人もいない。僕はほとんど自己流だが、鞭の感覚で竿を操るのを覚えるのには相当時間がかかった。毛ばりにようやくヤマメが食いついても、それに合わせて糸を引くのもなかなか難しい)

で、その当日は、ミイラにまでならなかったが、行く川、行く川で、魚影見当たらず、毛ばりをくわえるアタリさえほとんどなかった。栴檀轟の滝の下部の川、椎原の川…そして最後にたどり着いたのが樅木のつり橋の上流の川。

この川は去年、紅葉を撮影に行く途中で見つけた川だ。民家の畑跡の空き地の向こうから川の音が聞こえ、草むらをかき分けていくと川に降りる小道を見つけたのだった。釣り道具一式身にまとい、(小道は途中で崩落していた)河原に(すべり)降り立つ。

目の前に広がる、ごうごうと苔むす岩々の間を清流が流れる美しい渓谷の景色。この川も、ほとんどアタリがない。主人公の見当たらない川。上流に向かうが、大きな岩が階段状に滝を作り、もう先には進めない。あきらめて引き返し、今度はカメラと三脚をもって同じ河原へ降り立つ。ヤマメは釣れなかったが、写真の収穫が数枚。

秋の紅葉時にまた来よう。この景色がどういうふうに色づくか今から楽しみなのだ。

「フライでヤマメが釣れるのはせいぜい、一日に一匹ですよ」これは負け惜しみではない、ミイラ同士が事実を語り合う言葉である。

アケボノソウに癒される。

ガヤガヤ、ゴカコヤの谷

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