2017.08.25
山行
8月11日は「山の日」ということで、誰が勝手にそう決めたのか、それなりの理屈はあるのだろうが、思うに、山の日以外にもいろんな記念日を誰彼ともなく言い出しているような気がして、世間の風潮も最近食傷気味なのだ。
「いい夫婦の日」とか、「いい買い物の日」とか。横文字の「プレミアムフライデー」とかもあるけど、そんな日は、つい「プレミアムモルツ」の日とかを連想して、金曜日にはビールを飲む人が増えることを期待した企業の商魂たくましい策略の一つのような気もする。
五家荘の山の達人、M氏とO氏も、折角だからと山の日に五家荘の登山の企画をし、早速フェイスブックで募集をかけた。「ゴカコヤノ谷を遡り、熊本県最高峰の国見岳の頂上を目指す」というコースで、正直、ゴカコヤノ谷とか僕はこれまで聞いたこともない。もちろん地図にも載ってないわけで、だいたい谷の名前からしてややこしそうではないか。もちろん僕はそんなヤバソウナ谷の登山なんて、キツイに決まっているので誘われたら断るつもりでいたが、別件の打ち合わせ時、ジョイフルで抹茶パフェをえぐるようにすくい食べながら(いい年こいたおじさんですよ!)長いスプーンを口にくわえたまま、低いかすれた声でOさんが僕に向かい、「Tしゃんも、行くとだろ?」という脅しともとれる一言に、僕も(心に魔が差して、意思とは逆に軽い声で)「もちろん、行きますよ」と答えてしまったのだった。
だいたいそんなコースに人が集まるのか?当日、3人だったら嫌だな。煮詰まるな。これはいよいよ、ヤバイ谷だと思いながらも時が過ぎるに、参加者はどんどん増え続け、当日の参加者はなんと総勢34名にまで膨れ上がったのだ。(参加者の平均年齢はたぶん60歳、最高齢は伝説の山ガール、オババ様75歳)たいした告知もせずにフェイスブックでこれだけの人を集めるなんて、2人の情報発信力はすごい。(新聞の記事でも数人来たらしいけど)この大人数で、地図にもない「ゴカコヤノ谷」を登るのだ。まさに「ガヤガヤの谷」である。広場でMさんが手際よく、全体を4班に分け、各班のリーダーを決める。点呼を取りいよいよ出発だ。僕はどの班にも属さない(意味不明の)フリーという扱いになった。
1時間程林道を歩き、国見岳の頂上近くの稜線を目指し、ゴカコカヤノ谷を登る。道なき道、苔むす倒木をくぐり、よじ登り、滑る坂を踏ん張り、どんどん高度を上げる。緑に包まれた原生林の中を、沢からの涼しい風に吹かれながら行軍は進む。時に大小の滝も連なり、全員の足が停まる。岩の間から噴き出す生まれたばかりの清冽な水しぶきを浴びる。この水のしぶきが清流川辺川の一滴となるのだ。順番待ちの間に、三脚を立てカメラのシャッターを切る。こんな森の奥深さは、県内では五家荘でしか見られない景色だ。撮影で多少列から遅れても、次の滝の登りで行軍に追いつくことができて、最初から足の遅い僕にとっては幸いだ。
登山開始から3時間過ぎ、昼食後、すぐに稜線に出て最後の登りを頑張ると、丁度12時に国見岳の山頂に着いた。天気は晴天、九州山地の連なる山々を眺めながら、全員で記念写真を撮り、列を作り下山する。下山のルートも通常の踏み跡の着いたルートではなく、森の中をかき分けて降りるルートで少し遠回りだが景色は良い。林道に午後4時頃到着。これで朝4時起きの僕の山の日のイベントは終わった。
「ガヤガヤ、ゴカコヤノ谷」の登山…全身汗びっしょりで疲労の極致、足は途中半分つりそうで、ズボンはドロドロ、ボロボロになっても、それでも楽しいのが「山登り」なのだろう。
熊本県最高峰、標高1,739メートルの山頂から海抜ゼロメートルの我が家まで僕が帰宅し、飼い猫どもに「何があった?」というような驚いた顔で出迎えられた後、スマホでO氏のフェイスブックを見ると、すでに民宿、佐倉荘での大宴会は始まっていた。「ゴカコヤ旅団」の残党の大部分は一泊し翌日も五家荘の山に登るのだ。この人達のエネルギーはどこから湧いて出てくるのだろうか。僕は冷蔵庫から(プレミアムモルツではない)一番搾りを取り出し、ぐいと飲みほした。8月11日は、いい山の日だった。