2017.09.24
山行
五家荘には九州100名山に選ばれた山が10座あって、熊本県最高峰の国見岳を筆頭に、烏帽子岳、白鳥山、積岩山、山犬切、雁俣山、上福根山、京丈山、保口岳、大金峰・小金峰と名を連ねる。僕はもともと登頂の数を目的に山登りを始めたわけではなく、ただ気に入った山が見つかればカメラを背に背負い、思うまま繰り返し登ってきただけなのだけど、今回、ある仕事をお手伝いするにあたり、せめて10座くらいは踏破せざる得なくなった。そんな機会がなければ当然、登ることもない山もあるのだろうけど、とにかくその10座を目指して僕は地図を眺め始めた。
それで今週は、仕事の合間を縫って大金峰・小金峰、保口岳を目指したのだった。両者ともガイド本を見るに、新緑、紅葉の景色は当然美しいのだろうけど、そんなに山野草がいくつも自生しているようではなさそうだ。目的はまず登ることなので、レンズの数も減らし、三脚もなしにした。日頃、ほとんど運動もしていない固い肉の塊のようななわが身だけど、ルートもそんなに難しくなさそうで、往復6時間、軽いザックを背に「たったった」と登ってしまうことが出来ると思い込んでいた。そして登山を始めると、すぐにそんな思い込みは無残にも崩れ、体全体の筋肉は引きつり(早起きの猫を飼育している宿命で、どんなにきつくても朝5時には起こされる!)慢性的な寝不足で、朦朧とした意識で登山道をよろよろと登り始めたのだった。「たったった」どころではない、「(青色吐息)だ、だ、だあ」なのである。
「大金峰・小金峰、保口岳…ファミリー向けの登山ルート」確かにそうガイド本には書いてあったような気がするが、僕にとってはどうして「長い、つらい」。とくに保口岳はカヤが生い茂り、帰りの林道の降り口を間違えて、えんえん山をさまようこと1時間半!相当な体力のロスとなった。
そんな無残な山行きを唯一いやしてくれたのが、アケボノソウで、傍目は湿地に生える雑草にしか見えないのだけど、上からのぞくとなんと美しいことよ!星形の白い花びらに黒い点々がまぶされ、黄緑の水玉が各々2個。その水玉は蜜腺で、虫を誘う蜜が分泌されているそうだ。山野草のなかでこんなデザインの花はこれまで見たことがない。いったい誰がデザインしたのか。アケボノソウ(曙)の名の由来も、黒い点々が星に見えるからという説があり、星形の花びらに、点在する小さな星々…そして黄緑の水玉惑星。
味気ない林道の中で、這う這うの体でへたり込む寸前の僕のこころは、彼女たちの美さに癒され、何とか帰路に着けたのだった。美しいデザインは力なり。