熊本県 八代市 泉町(旧泉村) 五家荘
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雑文録

2021.11.29

山行

霊感がどうの、守護霊がどうの (熊本市内の事務所の近くにある、某教団から無料の本がしょっちゅう送られてきて迷惑) 信じるタイプではないが、山を歩いていて「何か」を感じる時がある。その「何か」とはその場の磁力かもしれないし、なんらかの波動かも知れない。実際、登山用の磁石は目に見えない力で正確に北を指すのだ。

以前、ヤマメ釣りをしていた頃、いろいろな川を見つけては、道を降り、川に針を落としていた。ある日、某農業高校の分校近くの車道のわきに、車一台通れるくらいの古道を見つけ、川に降りて行った。舗装が途切れた道の先は緑の樹々に覆われた広く薄暗い淵になっていて、ちょうど川がえぐられたように膨らみ、蛇行しているその水たまりのスペースは釣りには恰好の場所だった。

昔の大雨の被害の跡だろうか、橋の欄干の一部が残っていて、この道は川を挟んで集落間の生活の行き来に使われていた形跡がある。淵は苔むし、水の色は深い緑で大きくうねっていた。この淵の深い奥底、岩の影にヤマメは息を潜め、居るはずだと、僕は何度も竿を振りあげ、岩から滑り落ち白く水が泡立つポイントに毛バリを落とした…しかし、うねる流れに乗り白い毛バリがふわふわ流されていくが、いっこうに魚のアタリの気配がない。気配がないどころか川に生気が感じられないのだ。何だか体全体がズーンと重く、気分が悪くなる。何度も何度も、針を落としても上手くいかない。その時は、その場をあきらめ、次の川を探しに坂を戻った。ところが次の休みの日も、僕は同じ場所に呼び戻されたように戻り、同じ場所に立ち竿を川に振りあげた。全然当たりがないのが悔しいのか、その淵に何か誘われた気がしたのだろうか。そして途中、前回と同じように体全体が重く、動きが取れなくなった。その場にいるのも耐えられず、しかし場所を変えるのではなく、重い体を動かし、その川をさかのぼることにした。ヤマメ釣りは本来、釣り上がるのが基本なのだ。ひざ下まで川に浸かり、転がる岩を避けながら上流を目指す。川の水深は浅く、流れは想像以上に早く足をとられそうになる。やはり、全然魚のいる気配がしない。釣りどころではない、早く陸地に上がれそうな場所を探さないと、すでに両岸は荒れた竹林に覆われ這い上がる道も見えない。また、体全体がズーンと鉛を背負うように重くなる。ふと、足元を見ると、水の色は透明で、白くさらさらと流れ、川底の石も手に取るようにくっきり見え、その石の横に細い白い骨が見えた。おそらく猪か鹿の骨なのだろうが…僕の体は驚き、跳ね上がろうにも川の流れに足をとられ、ここがどこだか、更に重く動かなくなって流れにたちすくんだのだ。

ハチケン谷も同じく、谷に向かう途中の林道で、僕の体は重くなる時がある。車に乗っていても同じハンドルが重く、一昨年、何かを感じた時に車の後ろのタイヤがバーストして、完全に動かなくなった。荒れた竹林に覆われた廃屋のトタンふきの屋根を見た時だった。普通、タイヤがパンクするのは落石の尖った先を踏んだ時なのだが、そんな形跡はまったくなく、ナイフで切り裂いたようなタイヤの傷口は側面に10センチほどの長さだった。(レッカー車を呼ぶのにえらい高い費用と時間を要した)。それにもこりず、ハチケン谷に向かうたびに、同じ場所で「何かを感じる」ので、最近はその道を通らず、本線からの分岐の前の空き地に車を停め、景色を眺めながら歩いて谷のゲートに向かう事にしている。

ハチケン谷は川に沿って峠に向かう林道があり、度々の水害でその林道は壊滅状態になった。今春久しぶりに訪れると、その荒地は見事改修され、ほどよい登山道に変身した。切り開かれた林道の左右の新緑の景色を眺めながら坂を登り、峠の近くになると杉林の斜面に山芍薬の姿が見られた。白くまるい、拳くらいの芍薬の花ビラは妖しく瞳のように大きく開き、不思議な空間を作りだしていた。芍薬だけではない、ヒトリシズカや、蘭、山野草が花の蜜の香りとともに、林道のあちこちに咲き誇り、深山の春のひと時を楽しむことができたのだった。

そして、秋のハチケン谷の紅葉の景色も楽しみだと僕は期待した。夏も過ぎると、紅葉の前に「トリカブト」の群生が見られると、山の先輩のフェイスブックにトリカブト独特の花の写真が載り始める。(これらの花は違うルートで山に登り撮影されたものだったのか) 残念ながら、トリカブトの開花時期は逃したが、10月30日、少し早いが山の紅葉の景色だけでも一人楽しもうと思い、僕はハチケン谷の入口のゲートをくぐった。

そこで見たのは、紅葉どころではない、夏の大雨で崩壊され尽くした谷の景色があった。5分も登ったところで、道はなだれうち押し寄せる、丸い大きな岩の塊に埋め尽くされていた。僕の足元には初めて見る黄金色のキノコが傘を開いていた。その色は、この先キケン立ち入るなとの警告だったのかも知れない。

 

 

ふと耳の奥に、「バーン」「バーン」と音が弾き、響いてくる。何の音か?その音は鳴りやまない。遠くをみても道は見たらず、押し寄せる岩と崩落した茶色の山肌しか見えない。思うに、その「バーン」「バーン」と言うのは崖からまだ崩れ落ち続ける岩の音なのだ。不気味に谷のあちこちから音が聞こえてくる。「この先、危険」万が一、その岩がこっちに向かってはじけ飛んできたら逃げようはない。通常の登山道でも、ガレ場を登っていて、足元の小石が崩れ落ち、たとえその石が小さな石でも、次に大きな石に当たり、ガレ場全体が崩落する危険がある。ハチケン谷は大きな岩がはじけ飛んで、僕のあしもとまで押し寄せて来ていたのだ。

過去に山で遭難した時も、闇の中でゴロゴロ、ゴロゴロと岩の転がる音がしていた。川の中で、岩が流れに押されて転がり落ちる音が響いていた。山はそうして、木がなぎ倒され、谷が崩れ、岩がはじけ飛んで形相が変わっていく。

ハチケン谷はキケンだ。シャレを言っている場合ではないぞ。

帰ろうと、振り返り坂を下る途中、僕はコンクリートの苔むした道に足を滑らせ、右肘を強打した。とっさにカメラを守り、肘をつくことでカメラを守った。(最近、病気の後遺症で足元がふらつき平行感覚がつかめない)

そして、ひじをついた足元に「トリカブトの花」を見つけた。こんな時期になっても半分枯れかけた茎に咲く紫の花が三輪…猛毒とも言われる異形の花「トリカブト」が目の前に現れた。僕は痛みとしびれる指先でシャッターを切った。

 

 

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