カメラを時々いじるしか能のない僕にも、今年はようやく、壮大な趣味が出来た。熊本の深山、五家荘の写真撮影だ。年明け早々、急坂にへたり込みながらも登り始めて、そして何度も雪道を滑り落ちながらもカメラのシャッターを切った。今にも泣きそうなみっともない汗まみれの顔も山では誰も見ていないからどうってことはない。
春になると道端の名も知らない花々を撮りまくり、初夏の若葉と水がはじけ飛ぶ滝も撮った、夏の猛暑もなんとか乗り切ったが、写真で一番期待したのはやはり紅葉の景色だ。秋が深まると山道の自然林の葉の色が一気に色づき、赤や黄色に変わるのだ。
久々に写真雑誌を買うと、全国各地の紅葉の特集が組んである。目の覚めるような絶景の写真が本の中で競い合っている。ある写真では手前の苔むす岩の上には美しく紅葉した落ち葉がいくつも重なり、敷き詰められてまさに錦秋を絵に描いたよう。その奥には白い滝がどうどうと流れ落ちて…これぞまさしく日本の秋の景色なのだ。
そして僕は微笑む…都会人のようにそんな景色を強いて探さずとも、五家荘の山々には当たり前のようにどこでも転がっているのだ。なんとぜいたくな田舎暮らしよ。今の僕は、昨年までの車道から景色を眺めてシャッターを切るだけの軟弱なカマラマンではない。なにしろ雪が降っている時から山に登っているのだ、カメラを担いで汗をかき、雨に打たれながらもシャッターを切ってきた男なのだ。本当の山の景色を撮るには、それなりの経験を積んだものしか資格がないのだ。あの山、この山、どんな山。ほんとうに紅葉の時期が楽しみだわい…と11月の初め、僕はわくわくしながら山に向かったのだが、今年はその肝心の紅葉の景色がないのだなあ。あの山、この山、どの山も今年は気候の変動が激しく、紅葉の葉の形も縮れて、近づくと色もくすんでキレイではない…足元に敷き詰められている落葉も、みんな茶色で全然美しくないのだ。
で…あたりは、紅葉どころか何故かキノコの山。あちこちにいろんな種類のキノコが百花繚乱(?)これはいったい、どうしたものかとキノコの写真を撮りまくって時間が過ぎる。(書店でキノコの図鑑を買うと、ほとんどが食用に適さぬ毒きのこばかりではないか。なんたることか。)
ようやく撮ったのがこの一枚。