五家荘とは九州山地の中央、標高1,000メートルを超える山々と、その山間の集落の総称を言う。
今でこそ道路も開通し、往来も楽になったが、それでもいったん山に入ると深い森の世界が待ち受けている。一般に山の頂上というのは見晴らしが良く、登頂の達成感が得られるものだが、五家荘の山々のほとんどは、うっそうとした樹々に囲まれ、それほどの感慨はわかない。しかし足元を見よ。そこには名も知らぬ可憐な花々が、枯葉の陰でひっそりと美しい花を咲かせているではないか。岩陰では蜜蜂たちが忙しそうに、花の蜜を集めて飛び交っている光景がある。僕の五家荘の楽しみはそんな花々や生き物と出会う、驚きと嬉しさなのだ。道草も、寄り道も、迷い道もよし。そもそも五家荘という地名は、地図を探しても何処にもない。つまり、この図鑑は未完の図鑑なのだ。
未完の著者
【著者名】竹田真二
【略歴】
1959年12月熊本県宇城市生まれ。地元の高校を卒業後、京都に出奔。演劇の世界をさまよう。ペットショップ店長、小劇場の管理人などの仕事をする。1993年帰郷。半島の突端の海の見える家(自称、猫屋敷)に住みながらも2時間以上をかけて五家荘の山に通う。
【作品歴】
「夢の港」(平成15年度熊本県民文芸賞・小説部門二席受賞)
「水の記憶」(平成16年度・小説部門二席受賞)
以後3作目の執筆を目指すも長い休憩中。(もう書けないかもね)
【好きな作家】
つげ義春、タルコフスキー、足穂にシブサワさん。
(ゆっくり読みたいものだ)